親父の記憶 VOL.5 雑煮の話。
一年の始まりには台所に立つ親父。
普段は台所に立ち入ることなど、ほぼなかった親父。
ザ・昭和の父親像。男子厨房に入るべからず、の世界である。
現代においては、こんなことを言おうものなら、時代錯誤だとお叱りを受けそうな感じだ。
ただ、そこはザ・昭和の田舎家庭。親父が台所に立つ姿など、ほとんど記憶にない。
ところが
そんな親父が、年に一度だけ、他の者に台所への立ち入りを禁じ、早朝から炊事を始める日があった。
元旦である。
雑煮を作る仕事は、誰にも譲らなかった。
何故ここまで雑煮にこだわっていたのかは、今となっては定かではないが、断固として自ら作っていた。
もちろん、今年の元旦も雑煮を作った。
この雑煮が天下一品!!
よその家や飲食店でも雑煮を食したことはあるが、親父の雑煮にはかなわない。
贅沢雑煮だから美味いのは当然なんだが。
親父の雑煮は具が贅沢である。
汁のベースは醤油味なのだが、放り込む具が
白菜や人参、その他うちの畑でとれる沢山の野菜、海老、イカ、数の子、ブリ、鳥のモモ肉等など、ありとあらゆる出汁がでそうな具材を入れるのだ。
いろんな出汁がとけこんで、そりゃあ美味いに決まってるのだ。
これらの具を早朝からコトコトと煮込んで、雑煮の汁を作るわけだ。
それは、表現できないほどの出汁の味が、奥深い味わいになる。
餅も当然、年末に自宅でついた餅だ。
不味いわけがない。
正月に家族全員が楽しみにしていた逸品なのだ。
誰が再現できるのか・・・。
親父が早朝から作っていた雑煮。
今後誰が再現できるのか・・・。たぶん、難しいな・・・。
だって、誰も作るところを見てないのだから。
調味料に何をどのくらい使っていたのか、全くわからない。
来年の正月は、雑煮の楽しみがなくなってしまった・・・。
しかし
少しずつでも、親父の味に近づいて、再現できるように、試行錯誤してみたいと思う。
ああ
あの雑煮がもう一度食いたい!